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現地リポート

2022年全豪オープンの様子を
みなさまにお届けします。

VOL.07

テニスライター 内田暁コラム

青山柴原ペア 惜しくも決勝進出を逃すも ~その“次”は必ず訪れる!~

 大会2週目の木曜日——。

 オーストラリアの英雄、ロッド・レイバーの名を冠するセンターコートに、二人は足を踏み入れた。

 1984年ロサンゼルス五輪のテニス会場にもなったUCLA出身で、「大きなコートが大好き」という柴原瑛菜は、初の大舞台に胸を高鳴らせる。

 ツアー生活10年以上を経て夢舞台に立つ青山修子は、「緊張して力が出せないのはもったいない。強い選手は大舞台でも力が出せる」と自身に言い聞かせた。

  今大会第2シードの肩書を背負い、優勝候補にも目される青山と柴原のペアは、全豪オープンでは初、グランドスラムでは昨年のウィンブルドンに次ぐ2度目となる、準決勝の高みへと歩調を重ね勝ち上がってきた。

 ペアを組んで既に2シーズン以上を戦い、グランドスラムに次ぐ格付けのマイアミ・オープンも制した二人の強さの源泉は、常にコミュニケーションを重ね、試合中にも相手を分析しリアルタイムで策を講じる能力にある。 

 窮状に強く、逆転勝利も多いのがその証左。今大会でも、初戦は第1セットを落としながら逆転するという、ある意味で二人らしい大会のスタートだった。

 もう一つ、二人が「私たちの良さ」として、しばしば口にする言葉がある。

 それが「思い切りのよいプレー」。ネットに身を隠すような低い姿勢から、身体ごとボールに飛びつく青山のボレー。

ポーチに出ようとする相手の裏をかくように、ストレートに叩き込む柴原の強打。

それら、「相手に常にプレッシャーをかける動き」こそが、二人を大会第2シードの高みに押し上げてきた。

 それら二人の強みが存分に発揮されたのが、準々決勝の一戦だったろうか。

 相手はダブルス巧者であり、なおかつシングルスでも活躍するペトラ・マルティッチとシェルビー・ロジャーズの二人。その実力者相手に青山たちは、第1セットを6-1で奪取。だが第2セットに入ると、相手は個々の能力の高さも生かして、勝負を仕掛けてくる。

 その時に物を言ったのが、経験に裏打ちされた、青山の分析力だ。

 「マルティッチはI(アイ)フォーメーションを嫌がってきている」と感じた青山は、セカンドサーブでもIフォーメーションを貫く戦術選択。果たして、前衛の柴原の動きを嫌がる相手は、ループ気味にボールを返してくる。その配球を読み切った青山が落ち着いて対応し、柴原がボレーを叩き込んだ。

 さらには相手のサービスゲームでは、「ワイドにキックサーブを打ち、前衛が真ん中に寄って構える」という攻撃パターンを察知。そのうえで青山は、「リターンを一本、ストレートに打ってみたら」と柴原に助言した。

 その助言を胸に、柴原がブレークポイントで値千金のリターンウイナーをストレートに叩き込む。

「タフなシチュエーションで、返すだけでも大変な場面。本当にナイスリターン」

 10歳年少のパートナーの強心臓を、青山は絶賛した。

  戦うたびに調子を上げ、手応えと自信も胸に勝ち上がった準決勝の舞台で対戦したのは、ベアトリズ/ハダッドマイア/アンダ・ダニリナ組み。昨年までは別々の選手と組んできた、いってみれば急増ペアだ。両選手ともに大きな実績は無かったが、前週のシドニー国際でいきなり優勝。「あそこから全てが変わった」と言うほどの、キャリアの転換期を疾走中のペアである。なおその優勝への道程では、青山/柴原組にも勝っていた。

 ノーシードとはいえ、直近の対戦で敗れた相手を、青山たちが甘く見ていたはずはない。ただ、これまで収集してきたデータも用いて戦ってきた二人にしてみれば、相手の情報が足りない側面はあったかもしれない。

 試合序盤から、狙いすましたようなボレーを、あるいは狭いところを敢えて抜くようなストロークを打ってくるのは、相手の方だった。もちろん第2シードと戦う相手にしてみれば、チャレンジャーに徹することが出来たのは大きいだろう。

 一方の青山たちは、「やっぱり勝ちたい気持ちが強かった」と後に認めた。勝ちに逸る気持ちは時に安全策を取らせ、時にミスを誘発する。準々決勝では好調だった柴原のリターンが不発だったことも、二人の戦いを苦しくした。

 それでも第2セットでマッチポイントをしのぎ、相手の勝利へのサービスゲームをブレークすることで、流れを変えてセットを奪い返す。ファイナルセットにもつれ込んだ時は、追い上げる“青柴ペア”が優勢かと思われた。

しかし……、両チームともにトイレットブレークを取り再会した第3セットでは、相手が立て直してくる。

 先にブレークを許した日本ペアにも、ブレークバックのチャンスはあった。ただ、追い上げたタイミングで青山の狙いすましたストレートへのショットが僅かに外れるなど、どこかプレーと勢いが噛み合わない。最後は相手のスマッシュで、頂点を目指した二人の戦いに終止符が打たれた。

 「良い時はもっともっと思い切って二人で相手にプレッシャーをかける戦いが出来ると思うんですが、今日は少しショットが消極的だったり、私も前でストレートをケアしすぎて真ん中のボールを逃したり。相手にプレッシャーをかける回数が少なかったかなと思います」

 悔いをにじませ、それでも明瞭に、青山が敗因を振り返る。

 「勝ちたい気持ちが強くて、ちょっと安全に行き過ぎた。後ろでセットアップするショットが足りなかったかなと思います」

勝利を意識するがゆえの硬さや消極性を、柴原も口にした。

 昨年のウィンブルドンで準決勝に勝ち進んだ時は、挑戦者の立場で立ち向かい、敗戦にも力を出しきった清々しさをまとっていた青山と柴原。

 その二人が今回は、挑まれる立場に身を置くがゆえの心の揺らぎを、痛みと共に感じたようだった。

 それら対極に配する二つの敗戦は、次に同じ状況が訪れた時、かけがえのない経験値となる。

 これまでにも、あらゆる結果に真摯に向き合い、会話を重ね糧としてきた二人なだけに、その“次”は必ず訪れると、信じられる。

内田暁

内田暁

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テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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